こんにちは、餅月です。
今回は黒執事第114話「その執事、暴行」を考察していきたいと思います。
第23巻の最終話ですね。
あらすじ
扉絵:天球儀の上に寝そべり目を閉じる真シエル(眼帯をしていないため)
大量のお菓子を抱え込みスフィア・ミュージックホールの外でセバスチャンと落ち合うシエル。
二人は馬車に乗る
セバスチャン「それで?たいそう気持ちよくお休みになられていたようですが?」
坊ちゃん「限定集会が始まってすぐにP4が歌い出してそのあとの記憶が無い。睡眠薬のようなものをかがされたとしか思えん。だが僕を含め参加者全員危害を加えられた様子はなかった。そっちはなにか変わったことは?」
セバスチャン「偶然アバーライン警部にお会いしまして、坊ちゃんに伝言を承りました。このところ連続して奇妙な死体が上がっているそうです。死斑も少なく外傷もない、奇妙な死体だとか・・。しかも身分や職業に一貫性が無く捜査が難航していると嘆いていらっしゃいました。何か情報をつかんだ際は教えてほしいと。」
坊ちゃん「正義の下僕が悪の貴族に助力を求めるとは、明日は槍でも降るか?(見下したように笑む)」
セバスチャン「やり方は違えど、市民を守る目的は同じはずだとおっしゃっていました。」
驚く坊ちゃん
坊ちゃん「・・なるほど、彼は出世できんタイプだな。しかし現状では自殺か他殺かも判断が出来ない。もう少し情報が欲しい」
セバスチャン「私が新たに発見した死体は18体。白骨化や腐敗が進んだものについてはわかりかねますが「きれいすぎる死体」の特徴と酷似したものが5体。ロンドン東のエッピング・フォレストの土中に遺棄されていました。新聞の尋ね人欄や聞き込みをしたところ死体の身元は露天商、画家、布屋の店員、メイド、貿易商の三男・・と統一性がありません。」
坊ちゃん「それはもう何らかの目的を持った連続殺人とみるべきだな。セバスチャン、死体を運んで調べさせろ。」
セバスチャン「それは構いませんが・・・どなたに検死を依頼するおつもりで?」
坊ちゃん「あー・・そうか、しまった。糞・・葬儀屋がいればすぐに死因にアタリがついたのにアバーラインに伝えて調査させるしかないか・・。」
セバスチャン「!!!」
途端に何かに気づき、荒々しく坊ちゃんにつかみかかるセバスチャン。坊ちゃんの上着をはぎます。
セバスチャン「血の匂いがします。ここに、針の跡が・・・!」
腕に針の跡を見つける。
ザワッと危機感を感じる二人。
セバスチャンは馬車をおり早急にサリヴァンの屋敷へ向かいます。
サリヴァン「どうした騒がしい。おー、シエルか。夜這いならもう少し静かにきたらどうだ?」
蜘蛛の足のような機械を装着したサリヴァンが階段を下りてくる。(新発明した「蜘蛛の脚(アラクネ・パトュサ)」)
サリヴァンの魔改造され面影がなくなった部屋を見て驚く坊ちゃん
サリヴァン「ああ、女王(ばーさん)が揃えてくれたぞ。たまに遊びに来る。ケーキ付きで。」
坊ちゃん「直々にか!?…流石女王陛下…英国王室直々の投資か、抜け目がないな。」
坊ちゃんの診察を始めるサリヴァン。
皮下注射でこんなに遅効性の毒は聞いたことが無いと伝える。
そこで何かを思いついたようなヴォルフラム
ヴォルフラム「若は何かを注入されたんじゃない、逆に血液を採取されて貧血になったんじゃねぇのか?輸血のために」
ヴォルフラム「俺が軍にいた頃教えられた話だが、※普仏戦争では重傷を負った兵の救命措置のため別の兵から血を抜き負傷した兵へ注入する治療が行われていた。」
サリヴァン「だが輸血は成功率が極めて低い。成功条件が未だ解明されていない未完成のシロモノだぞ!?」
ヴォルフラム「はい、しかし成功すれば瀕死の重傷でも一命を取り留めることができる『奇跡の治療法』です。軍は積極的に輸血実験を行い、成功条件を探っていたと聞きます。」
※1870〜71年にフランスとドイツ北部のプロイセン王国の間で行われた戦争。プロイセンを中心として統一ドイツ帝国が成立した。
セバスチャン「成る程、限定集会の参加者は知らぬ間に食事やショーの代価を血で払わされていたのですね。」
サリヴァン「研究の精度を高めるには膨大なデータが必要だ。不特定多数の人間から血を集めるのは理にかなっている。民間人を巻き込むのはタチが悪いがな。」
女王の言葉を思い出す坊ちゃん
『数は力よ坊や。人が集まればなんだってできるわ。商売も、宗教も、戦争もね』
坊ちゃん「なにもかもが仮定だ。だがあの集会は間違いなく危険だということだけはわかった。そしてエリザベスはそこにいる!目を覚まさせるには、目の前に奴らの悪事の決定的証拠を突きつけるしかない!必ずあいつらのおぞましい企みを暴いてやる」
その頃、少年の死体を審査する死神の姿あり
グレル「ったく、つくづく厄介な事件ばかり起こる街ねェ、お陰でネイルの予約キャンセルじゃないのヨ」
オセロ「とか言って、田舎じゃ1ヶ月もたなかったろ?グレルチャン」
グレル「アラ、久しぶりネ。オセロ」
オセロ「いやー相変わらず娑婆ってのは有機的なニオイに満ちてるね50年ぶりくらいに嗅いだ気がするよ」
グレル「科捜化の死神が現場に出てくるなんて珍しーじゃナイ」
オセロ「最近良からぬことが続いているからね。俺を現場に出すなんて、やっとお上も本腰入れ始めたってコトかな??」
第114話 終了
考察
サリヴァンの部屋
今回、サリヴァンの魔改造された部屋が新たに登場しました。この部屋もかなり現代的で「進みすぎている」と言えます。
さて、この進みすぎた部屋ですが、実はモデルと思われるものが史実に存在します。
「驚異の部屋」ヴンダーカンマー
驚異の部屋(きょういのへや)は、15世紀から18世紀にかけてヨーロッパで作られていた、様々な珍品を集めた博物陳列室である。ドイツ語のWunderkammer(ヴンダーカンマー、ブンダーカマー)の訳語「不思議の部屋」とも呼ばれる。その他の呼び名にはKunstkammer(クンストカンマー)、Cabinet of curiosities(キャビネット・オブ・キュリオシティーズ)がある。
15世紀イタリアの諸侯や有力貴族の間で作られたことに始まり、16世紀にはドイツ語圏に伝わって、王侯貴族だけでなく学者や文人の間でも作られるようになった。自然物も人工物も珍しいものなら分野を隔てず一所に取り集められるのが特徴で、その収集対象も、珊瑚や石英を加工したアクセサリーや、アルチンボルドを始めとする奇想を描いた絵画、(しばしば架空の)動植物の標本やミイラ、巨大な巻貝、オウムガイで作った杯、ダチョウの卵、イッカクの角(ユニコーンの角だと思われていた)、象牙細工、ミニチュア細工、錬金術の文献、異国の武具、数学や医学用の道具、天球儀や地球儀、オートマタ、東洋の陶磁器、聖遺物やアンティークなど多岐にわたる。
科学・分類学の発達と市民社会の台頭などにより18世紀半ばに廃れていったが、そのコレクションのいくつかは今日の博物館の前身となった。大英博物館もハンス・スローン卿のヴンダーカンマーの収集物を基にして作られたものである。
引用源:
驚異の部屋 - Wikipedia
ヴンダーカンマーはなんでもアリのコレクションです。天井にはワニの剥製、精巧なオートマタが棚に置かれているかと思えば、壁に世界の辺境の地の民族衣装が飾られ、その隣には青く輝くチョウの標本が並んでいます。古代の兵士の甲冑に美しい南国のトリの剥製、何の骨だかわからない動物の骨格、人魚のうろこ、ユニコーンの角、悪魔の閉じこめられた琥珀なんてものまで!(中略)出所のわからぬ不思議な遺物から最先端のメカまで、古今東西の珍奇なものならなんでもそろっているヴンダーカンマー。なるほど博物館の前身であるのも頷けます。
引用源:
ヴンダーカンマー(Wunderkammer)驚異の部屋とは何か? | スチームパンク大百科S
この「驚異の部屋」。
ドイツ語圏を中心に栄えたとのこと。非常に面白いです。また絵の画家なのか、それともこの「驚異の部屋」の持ち主なのか・・?「オレ・ウォルム」という人物が存在します。
ヴォルフラムの名はもしかするとここからも少なからずインスピレーションを受けたのかもしれませんね。
基本「驚異の部屋」はいわゆるコレクターズルーム。最先端のアイテムもありましたが主には奇抜なアンティーク品を飾った部屋だったようです。
そのヴンダーカンマーを「進みすぎた」機械と織り交ぜ、枢先生が新たな「驚異の部屋」を生み出したとしたら、面白いものがあります。
回収された伏線「死んだ少年」
第112話で「キミはシャイニンスタアーー♪」と歌っている男の子が一コマだけ登場しました。
こちらの少年、ですが、今回114話にて、哀れな姿となって再登場しました。
天球儀
真シエルが乗っていた扉絵で天球儀がありました。これも、「驚異の部屋」によく置かれていたアイテムとして有名なものです。
サリヴァンは今後「進み過ぎた」事件を解決するための切り札
どうやら今後、黒執事が「未来を進みすぎている案件」を取り扱って行くことは間違いなさそうです。
その際ファントムハイヴ側が「未知の知識」に対抗するためのキーパーソンこそが、サリヴァンと言えるでしょう。
おそらく黒執事は、今後葬儀屋や死神派遣協会を通じ、時代を超越した科学的近未来的な技術が絡まる事件が起きるものと私は予想しています。
その際サリヴァンの開発する機会や知識がどのように坊ちゃんたちを導くのか。楽しみですね。
輸血の歴史
1616年Harvey ハーベィ 血液の体内循環論を発表
血液が生命や力の根源であるという考え方はとても古くからありましたが、彼の発表をきっかけに、動物の血管の中にビールや尿など、あらゆる物質を注入する実験が始まりました。
当時、注入用の器具として使われたのは、主に羽軸と動物の膀胱を組み合わせたもので、これは現在の点滴用器具の先駆けをなすものといわれています。
また、科学者のなかにさえ、子羊の血液を犬に注入すると、羊毛やひづめが生えてくるばかりでなく、そのほえ声も羊の鳴き声になってしまうと、真剣に議論した人がいたそうです。
人間に対する輸血のはじまり
1667年Denis ドニ 人間に対する輸血として認められている最初の輸血を行う。
人間同士の輸血のはじまり
貧血と高熱のある青年に半パイント(約225mL)の小羊の血液を輸血しました。この輸血で青年は顕著な回復をみせました。この後も、彼は小羊の血液を用いて輸血を行い続けましたが、ついに一人の患者を死なせてしまいました。
このために彼は殺人者として扱われ、長い裁判の結果、無罪となりましたが、フランスでの輸血は禁止されてしまいました。これにならって、イギリス議会やローマ法王庁からも禁止令が出され、ヨーロッパでの輸血は全くなくなりました。
人間同士の輸血のはじまり
1818年Blundell ブランデル ガン患者に人間の血液を輸血・・・失敗
1825年出産時の失血で死に瀕した婦人に輸血・・・成功
イギリスの産科医であったBlundell ブランデルの成功は世界中に伝わり、再び輸血についての興味を引き起こしました。
しかしながら、当時はまだ、血液型はもちろん、血液を体外に採り出したときに凝固するのを防ぐ方法も知られていなかったため、輸血に伴って起きる重い副作用や死亡事故などは当たり前のことでした。
従って、本格的な輸血の始まりは、血液型や抗凝固剤などが発見される20世紀まで待たなければなりませんでした。近代輸血の出発
1900年Landsteiner ラントシュタイナー ABO血液型を発見
彼はオーストリアの医師で、人間同士の血液でも、混ぜ合わせると血球の凝集が起こる場合があることを知りました。これが今日よく知られているABO血液型の発見です。これによって、これまで輸血の際、型の合っていない血液を使用したために生じた重い副作用や死亡事故を減らすことができました。1914年抗凝固剤の発見
血液型が発見された後も、血液を体外に採り出したときに固まってしまう問題が未解決でしたが、クエン酸ナトリウムを血液に混入すると固まらないことが分かりました。
この血液型と抗凝固剤の発見により、血液を採取して保存しておき、必要なときにそれを取り出して輸血に使用することが可能になったのです。輸血の発展
1937年世界初の血液銀行を設立
これはアメリカの医師Fantus ファンタスが、シカゴにあるCook County病院内に設立したものです。1回の採血量は500mLで、その保存期間は10日間だったそうです。
血液を血球と血しょうに分離する技術も、このころ開発されました。
また、1930年代末に始まった第2次世界大戦では、大変多くの輸血が行われ、傷病兵の生命を救いました。1940年Landsteiner ラントシュタイナーとWiener ウィーナーがRh血液型を発見
1943年血液保存液(ACD液)が開発される
1944年Cohn コーン(米・ハーバード大学) 血しょう分画製剤の製法を完成
最近の輸血
近年、輸血の方法は大きく変わりました。それまでは、まくら元輸血やガラス瓶に採取した血液をそっくりそのまま輸血する方法でしたが、今日では、プラスチック製の血液バッグに採取した血液を、血球や血しょうに分けて輸血する成分輸血が主流となっています。
また最近では、他人の血液を輸血せずに、患者さん自身の血液を輸血する自己血輸血という方法もあります。
血液が神秘的なものと信じられていた古代から今日まで、血液とその輸血は数多くの障害や紆余曲折を経てきました。そして、私たちは効果的な輸血を通して、その恩恵を受けています。こうした陰には、多くの先人たちの苦労があったことを忘れてはならないでしょう。
黒執事は現在1889年。近代的な輸血の発展は1900年にラントシュタイナーが血液型を発見してから始まるものなので時代が10年ほど進みすぎているといえます。
人間同士の輸血が始まったものの完全な成功方法が発見されておらず、この1889年頃はある種輸血の中で最も危険な時代であったと言えます。
当時のフランスとドイツとは?
現在黒執事の中でイギリス以外にスポットが置かれている国はドイツとフランスです。
葬儀屋はちょくちょくフランスへ行っているようですし、ドイツ語が話せない坊ちゃんはなぜかフランス語はしゃべることが出来ます。またシエルという名前もフランス語です。
黒執事を考察するうえで切っても切り離すことが出来ないこの二カ国。
この二カ国は、「当時の最先端医療」というワードでくくることが出来ます。
具体的に言えば、当時19世紀、ドイツは基礎的医学が発展し、フランスはヨーロッパで最先端の医学を持つ国でした。
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オセロ「50年ぶりだ」
今回初登場した死神オセロ。
彼は人間界に来るのは50年ぶりだと発言しています。この数字で思い出していただきたいのは豪華客船編での葬儀屋のセリフです。
葬儀屋「懐かしいね、そう(死神と)呼ばれるのは半世紀ぶりだ。」
恐らくこの50年前、という区切りは何らかの意図がある伏線といえます。
オセロと葬儀屋は何らかの面識がある可能性があります。
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餅月